遺言は遺言者の死亡の時からその効力が生じます。(民985条①)
しかし、どのような内容であってもすべて効力が生じ、法的拘束力が生じるわけではありません。
作成方法、書式に関しては、民法で定められている遺言の方式に従わなければすることができず(民960条)、この方式に反する遺言は無効となってしまいます。
例えば、普通方式の自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言についてもそれぞれ方式が定められています。
また、遺言は基本的に相手方の同意を要しない一方的な単独行為であるため、遺言として効力が生じる遺言事項も民法で定められています。
では、どのような事項が効力を生じるのでしょうか。
ここでは、遺言の効力が生じる内容について解説していきたいと思います。
効力が生じる遺言内容
基本的に遺言書には、何を書いても自由です。
書いてはいけない事項というものが特に定められているわけではありません。
一方で、法的な効力を生じる遺言事項は、民法で定められています。
つまり、何を書いても自由ですが、法的効力のある遺言事項以外の事柄は、書いても法的には意味のないものとして扱われます。
では、以下で一定の法的効力を持つおもな遺言事項についてみていきましょう。
相続分の指定
相続分とは、各相続人に対して財産を分配する割合のことです。
法定の相続分は、配偶者と子がいる場合には、配偶者が1/2、子が1/2、配偶者と直系尊属の場合には、配偶者が2/3、直系尊属が1/3、配偶者と兄弟姉妹の場合は、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4・・と決まっています。
もし遺言書が無ければ、この法定相続分をもとに、共同相続人間の協議によって、相続分を決めます。
しかし、例えば、相続人のうち一人に、法定相続分より多く、もしくは少なく相続させたいという場合には、遺言書にその希望する相続分を指定することが可能です。(民902条)
ただし、法定相続人には、遺留分という権利がありますので(兄弟姉妹は除く)、遺留分との兼ね合いを考慮する必要はあります。
遺産分割の指定または禁止
遺言書が無ければ、被相続人の財産は相続人全員の協議によって、どのように分配するのかを決定します。
遺産分割方法には、例えば、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割等の分割方法がありますが、その分割方法を遺言で指定することができます。(民908条)
また反対に、遺産の分割を5年を超えない範囲で禁止することも指定できます。
遺贈について
遺贈とは、遺言によって財産を与える行為を指します。
法定相続人に遺贈することも可能ですが、一般的には相続人以外に財産を与える場合に使われます。
例えば、息子の配偶者は法定相続人ではありませんので、遺言書が無ければ財産を受け取る権利はありません。
しかし、介護をよくしてくれたので、息子の配偶者にも財産を与えたいという場合、遺言で指定すれば、法定相続人でなくても財産を与えることができます。
この遺贈に関して、財産の全部、または一定割合を遺贈する包括遺贈、あるいは財産のうち、財産を特定して遺贈する特定遺贈なのかを指定することができます。(民964条)
遺贈に関しては、他に下記のような別段の指定をすることも可能です。
- 受遺者の相続人による遺贈の承認・放棄(民988条)
- 遺言の効力発生前の受遺者の死亡(民994条②)
- 受遺者の果実取得権(民992条)
- 遺贈の無効または失効の場合における目的財産の帰属(民995条)
- 相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の責任(民997③)
- 受遺者の負担付遺贈の放棄(民1002条②)
- 負担付遺贈の受遺者の免責(民1003条)
推定相続人の廃除および廃除の取消
廃除とは、推定相続人(相続が開始されれば相続人となるべき者)が、生前に被相続人に対して、虐待や重大な侮辱を加えたとき、または推定相続人に著しい非行があったときは、被相続人は家庭裁判所に請求することにより、その者の相続権を剥奪することができます。(民892条)
廃除された者は、その遺留分権も失います。
この廃除の請求を遺言によって行うことができ、反対に生前に廃除した者の廃除を取消すことができます。(民893条)
この場合、請求、取消しの手続きをする遺言執行者も併せて指定する必要があります。
遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有する者のことです。(民1012条)
この遺言執行者を遺言書で指定することができます。
遺言執行者は、未成年者および破産者以外の人物でしたら、第三者や相続人の中から指定しても構いません。
ただし、遺言執行者は、遺言内容を実現しなければならない義務がありますので、ちゃんと引き受けてくれるのかどうか、あるいは就任後もきちんと手続きを行ってくれる人物なのかどうかを生前に確認しておく必要があるかと思います。
なお、遺言執行者については、他に下記のような別段の指定をすることも可能です。
認知
認知とは、嫡出でない子を父親(または母親)が自分の子として認める行為です。
認知すれば、親子関係が生じますので、その子は嫡出子と同等の相続権を有します。
生前は、隠し子がいることは秘密にしていたが、自分の死後に認知して財産を与えたいといった場合、遺言書にその子を認知する旨を記載することができます。(民781条②)
この場合、認知される子が成人の場合には、本人の承諾、胎児の場合は、その母親の承諾がそれぞれ必要ですし、また、役所に認知の届出も必要となりますので、この遺言で認知をする場合は、手続きを行ってくれる遺言執行者の指定も併せて必要です。
未成年後見人および監督人の指定
未成年者は単独で財産処分や契約等の法律行為ができませんので、通常は親権者である親が法定代理人として代理や同意を行います。
しかし、両親が同時に死亡した場合やひとり親が亡くなると、その未成年の子には法定代理人が不在で、様々な法律行為ができなくなってしまいます。
そこで、亡くなった親に代わる未成年後見人を選任するわけですが、この未成年後見人を遺言書で指定することもできます。(民839条①)
遺言による指定がなかった場合には、家庭裁判所が選任しますが、そうなると親族でもない第三者が選任されることもありますし、専門職が選任されると報酬が発生する場合もあります。
よって、少しでも自分の知った人物に子を託したいという場合は、遺言書で指定しておいた方が良いでしょう。
なお、未成年後見人になるには特に資格は必要なく法人や複数人を指定できますが、法律上、以下のような人物は後見人にはなれないので注意が必要です。(民847条)
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた(解任された)法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者で復権していない者
- 未成年者に対して訴訟をし又はした者、その配偶者、その直系血族(祖父母や父母等)
- 行方の知れない者
また、未成年後見人の職務を監督する未成年後見監督人を遺言書で指定することもできます。(民848条)
未成年後見監督人には、「後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹」はなれません。(民850条)
祭祀主宰者の指定
祭祀主宰者とは、先祖の系譜、祭具、お墓等の所有し、祭祀を主宰する者です。
平たく言えば、先祖の供養等を取り仕切る人物ということです。
この祭祀主宰者を遺言書で指定することができます。(第897条①)
生前に指定が無い場合や遺言による指定が無い場合には、まずは慣習によって、慣習が明らかでないときは家庭裁判所の審判で決めます。
特別受益の持戻し免除
まず、特別受益とは、相続人が被相続人から受けた遺贈または生前贈与のことを言います。
持戻しとは、共同相続人の公平性をはかるため、この特別受益額を計算上、一度、遺産額の中に戻した上で相続分を決め、さらにその相続分からその特別受益額を控除することです。(民903条①)
この場合、例えば、生前に被相続人から配偶者に不動産の贈与をがあった場合、その不動産額を持戻して計算した相続分は、その不動産のみで預貯金などの金銭を相続できないということも起こり得ます。
そうなると、残された配偶者は、将来的な生活費等に困ってしまうということにもなりかねません。
そこで、この持戻しを免除する旨を遺言書で指定することができます。(民903条③)
持戻しが免除されれば、上の例ですと、生前贈与された不動産は持戻さなくて済み、不動産額を除いた財産の相続分を得ることができるようになります。
なお、民法改正により、2019年7月1日より持戻し免除の意思表示の推定規定が創設され、以下に該当する場合は、遺言書他、明確な意思表示が無くても、持戻し免除の意思表示があったものとして推定されるようになりました。(民903条④)
- 婚姻期間が20年以上の夫婦であること
- 一方の配偶者から他方の配偶者への遺贈又は贈与であること
- 居住用不動産の遺贈又は贈与であること
この条件を満たせば、被相続人の持戻し免除の意思表示があったものとして扱われます。
保険金の受取人の変更
被相続人が契約者となっている生命保険金の受取人を遺言ですることができます。
受取人変更の規定は、民法ではなく、保険法に規定されています。
保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
2、遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。
保険法第44条
また、がん保険や介護保険などの傷害疾病定額保険に関しても、同様の規定があります。
保険金受取人の変更は、遺言によっても、することができる。
2、遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。
保険法第73条
いずれも遺言者の死亡後、相続人がその旨を保険会社に通知し手続きを行わなければなりません。
ただし、保険法は2010年(平成22年)4月1日に施行されましたが、この遺言による受取人変更の規定が適用されるのは、2010年(平成22年)4月1日以降に新規契約した保険であり、それ以前に契約した保険には適用されませんので注意が必要です。
上記の事項以外のことを記載できる?
冒頭にも述べましたが、遺言書は、どんなことを書いても基本的に自由です。
例えば、「家族仲良く暮らすように・・」といった遺訓のようなものや葬儀方法についてなど、遺言書の付言等を利用して書くことは可能ですが、法的効力はなく、相続人に対する拘束力も持ちません。
よって、家族への思い、単なる希望、要望を書きたいのであれば、遺言書ではなく、エンディングノートなどに記述し、あくまで希望として伝えるのも一つの方法です。
まとめ
以上、遺言書に書いて法的効力を持つ遺言事項についてお伝えしてきました。
おもだった事項についてはお伝えしましたが、これらがすべてではありませんので、こういった事柄を遺言書に記載しても効力が生じるのかどうか?お迷いのことがあれば、当事務所までお問い合わせください。
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