遺言書作成に対する意識が高まりつつある?
昨今、メディア等の影響もあり、「終活」という言葉が日常的に使われることが多くなってきました。
そうした背景もあってか、遺言書を自分で作成できるキットの売り上げも伸びているそうです。
また、2011年の東日本大震災の教訓を元に、公正証書遺言の原本を紙と電磁的記録の二重保存の実施、さらに、自筆証書遺言についても法務局で保管してくれる「自筆証書遺言保管制度」が2020年7月に施行されるなど保管体制も充実し、安心して遺言書を遺せる状況になってきました。
では、一体、遺言書はどのぐらいの件数で作成されているのでしょうか?
参考までに、日本公証人連合会が公表している過去10年間の遺言公正証書の作成件数を見てみましょう。
暦年 | 遺言公正証書の作成件数 |
---|---|
平成23年 | 7万8754件 |
平成24年 | 8万8156件 |
平成25年 | 9万6020件 |
平成26年 | 10万4490件 |
平成27年 | 11万0778件 |
平成28年 | 10万5350件 |
平成29年 | 11万0191件 |
平成30年 | 11万0471件 |
令和元年(平成31年) | 11万3137件 |
令和2年 | 9万7700件 |
年によって、若干の増減はあるものの、10年前と比べると、遺言書作成件数が増加していることがわかります。
もっとも、この数字は、公証役場に出向いて、手数料を支払って作成する公正証書遺言の作成件数ですので、もちろん公表されている数字はありませんが、遺言者本人が作成する自筆証書遺言を含めると、全体的には増加傾向にあると見ていいのではないでしょうか。
遺言書を作成しなかったらどうなるか?
遺言書を作成するもしないもその方の全くの自由で、必ず作成しなければならないという法律はありません。
遺言書が無ければ、民法が定める相続人が、定められた相続分(割合)をもとに、遺産を分割する流れになります。
相続分はあくまで割合が定められているに過ぎませんので、具体的にだれがどの財産を相続するのかは、相続人全員で遺産分割協議を行い、全員合意しなければなりません。
協議がまとまらなければ、家庭裁判所で調停又は審判を経て分割をするという流れになります。
また、遺言書を作成していなければ、下記のようなメリットを活用することができません。
遺言書を作成するメリット
遺言書を作成するメリットは、例えば、下記のようなものがあります。
自分の望む配分で相続人に財産を渡せる
もし遺言書を作成してなかったら、自分の財産は、法定相続人が各法定相続分を元に、話し合いで分配することになります。
しかし、相続人の中に、例えば、法定相続分を超えて多めに財産を残したいという人物がいる場合、遺言書を残しておけば、自分の希望通りの配分、方法で財産を分配することができます。
自分が希望する人物に財産を渡せる
遺言書を作成していなかったら、基本的に法律で定められている相続人が財産を受け取ります。
例えば、内縁の妻や孫、介護をしてくれた息子の妻など法定相続人ではない人物にも財産を渡したいといった場合、遺言書にその旨記載すれば、遺留分の問題はありますが、基本的に希望通りにその人物に財産を渡すことができます。
また、相続人が居ないおひとり様の場合でも、遺言書が無かったら、自分の財産は最終的に国庫に帰属しますが、それよりもお世話になった人物や施設に財産をあげたいといった場合でも、遺言書があればその意思を実現することができます。
遺産分割協議を経ずに財産の分配ができる
遺言書を作成していなかった場合、上述のように相続開始後、法定相続人全員によって遺産分割協議を行い、全員が合意したうえで、財産を分配します。
この遺産分割協議において話し合いが調わなければ、肉親間で深刻な遺産相続争いに発展してしい、名義変更や払戻し等の相続手続きが滞ってしまう事態になりかねません。
しかし、遺言書を作成し、その遺言書が法的に有効であれば、遺言書の内容が優先されますので、遺言者が他界した後、遺産分割協議を経ずに、遺言内容に基づいて速やかに相続手続きを進めることができます。
遺言書作成方法の種類
遺言には、大きく分けて、通常の遺言ができない緊急時や状況にある場合に、法律で許されている簡易な遺言方式である特別方式と通常の方式である普通方式とに分かれます。
ここでは、普通方式として定められている自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つについて、違いなどみてみましょう。
自筆証書遺言(民968条) | 公正証書遺言(民969条) | 秘密証書遺言(民970条) | |
---|---|---|---|
作成方法 | 全文、日付、氏名を自筆して捺印 | 公証役場に出向くか出張してもらい、公証人が読み上げる遺言書の内容を遺言者が確認のうえ、本人、公証人、証人がそれぞれ署名、捺印する | ①遺言者が証書(遺言書)に署名、押印 ②遺言者が証書を封筒に入れ、①で用いた印鑑で封印 ③公証人、証人に証書を提出し、自分の遺言書である旨並びに筆者の氏名及び住所を申述 ④公証人が日付、申述を封筒に記載後、遺言者、証人とともに署名、捺印 |
筆記者 | 遺言者本人の自書(添付財産目録は自筆でなくてもよい) | 公証人(署名・捺印のみ本人) | 自書の要件無し(署名・捺印は本人) |
費用 | ほぼ0円(遺言書保管所に保管する場合は手数料が必要) | 財産の額や内容に応じて公証役場に支払う手数料が必要 | 財産額や内容によらず11,000円の手数料が必要 |
証人 | 不要 | 2名以上(遺言者側で手配) | 2名以上(遺言者側で手配) |
保管場所 | 遺言者の任意で選定 (or遺言書保管所に保管) | 原本は公証役場にて保管。正本、謄本は遺言者側が保管 | 遺言者の任意で選定(公証役場で保管はしない) |
検認 | 必要(遺言書保管所に保管した場合は不要) | 不要 | 必要 |
自筆証書遺言の特色
自筆証書遺言は、基本的に費用はかかりませんし、用紙と筆記用具さえあれば、いつでもどこでも好きな時に作成することができます。
ただし、遺言書作成の方式は、様式、訂正方法等法律で定められており、もし方式に不備があると方式不備により、せっかく作成した遺言書が無効になってしまうリスクもあります。
また、自筆証書遺言は基本的に遺言者側が保管しますので、紛失や改ざんのリスクが付きまといますし、保管方法によっては、相続人に発見してもらえず、遺言を残した意味がなくなってしまうこともあり得ます。
なお、保管方法については、2020年7月より法務局の遺言書保管所に保管してもらえる遺言書保管制度が開始されましたので、申請により遺言書保管制度を利用すれば、紛失、改ざんといったリスクを防止することができるようになりました。
公正証書遺言の特色
公正証書遺言は、公証役場において、証人2名の立会いのもと、遺言者が遺言内容を公証人に口頭で伝えて、その内容を公証人が筆記して作成する遺言書です。
手数料は支払わなければなりませんが、遺言者が公証役場に出向けない場合には、公証人が出張してくれますし(出張費は別途)、法律に則した方式で作成してくれますので、方式不備で無効となるといった事態を防ぐことができます。
また、自筆証書遺言とは異なり、公証人が筆記してくれますので、遺言者が病気等で文字が書けない状況でも、遺言書を作成することが可能です。
保管方法についても原本は公証役場に保管されますので、紛失、改ざんの恐れもありません。
秘密証書遺言の特色
秘密証書遺言は、名称のとおり、遺言内容を秘密にしたまま公証を受けることができる遺言方式です。
公正証書遺言と同様に、公証役場にて証人2名の立ち合いのもと作成しますが、遺言書の内容自体は公証人が一切関与せず、遺言者本人に任されますので、方式不備による無効となるリスクは残ります。
公正証書遺言に比べ、手数料は安価で手頃ですが、公証役場で遺言書の保管は行わず、遺言者が保管すること(封印するため遺言書保管制度も利用できません)、また、検認が必要となることなどから、利用者は少ないと言われています。
遺言書を作成する上での留意点
遺言書を作成する上で、最低限おさえておきたい留意点として、下記のようなものがあります。
法律で定められている方式に則して作成する
民法960条には、遺言に関し、下記のように定められています。
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
民法第960条
この「方式」とは、おもに民法第967条~984条に規定されている方式を指し、この方式に不備がある遺言書は無効となりますので留意が必要です。
遺留分をどうするか
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人のために、法律上必ず留保されなければならない相続財産の一定割合のことをいいます。
例えば、相続人のうちの一人に全財産を相続させる内容や相続人以外の第三者に与える内容の遺言書を作成する場合、この遺留分を全く受け取ることができなかったり、遺留分額を下回る額しか受け取ることができない相続人が出てくることになります。
遺留分額を受け取ることができなかった相続人は、侵害した人物に遺留分が侵害された額を金銭で請求することができ、これを「遺留分侵害額請求権」と言います。(民1046条①)
この遺留分侵害額請求権は相続人自ら放棄するか、正当な廃除事由があれば、遺言者が家庭裁判所に廃除の請求(及び廃除する旨の遺言)をするか、もしくは時効が経過しない限り、権利は消えません。
時効は、遺留分権利者が侵害があったことを知った時から1年、また、相続開始の時から10年以内に請求権を行使しなければ消滅します。
よって、このような遺留分に抵触する内容の遺言書を作成する場合には、後々、争いにならないかどうか、また、争いになりそうならどのように防止策を講じるか検討が必要になります。
なお、遺留分を侵害する内容の遺言書であっても法的要件を満たしていれば、遺言自体は基本的に有効とされています。
遺言能力のあるうちに作成する
15歳に達すれば、だれでも遺言をすることができます。(民961条)
ただし、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない(民963条)」と定められています。
遺言は、遺言者本人の最終的な意思表示ですので、その意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、無効となります。(民3条の2)
この「意思能力」とは、自己の行為の結果を判断できる能力とされています。
つまり、遺言書を作成した時に、この意思能力が無かった場合は、その遺言書は無効となります。
例えば、事故や病気、特に認知症でこの意思能力を欠いていたときに遺言書を作成しても無効となることがあります。
よって、遺言書は、元気なうちに作成しておくべきでしょう。
当事務所の遺言書作成サポート
当さきわい行政書士事務所では、遺言書作成において、以下のようなサポート業務を取扱っております。
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