
遺言書の全文が自筆(遺言者自身の直筆、肉筆)で書かれた遺言書のことを「自筆証書遺言書」と言います(財産目録は除く)。
紙とペンさえあれば作れることから、他の遺言方式に比べて、簡単で手軽な遺言書の作成方法と言えるでしょう。
しかし、いくら簡単と言えども、そこには法律で定められた一定のルールがあります。
ここでは、自分で自筆証書遺言を作成する上での書き方の書式について、最低限のルールについて解説します。
自筆証書遺言書の書式に反すると無効となる
遺言書が無ければ、法律で決められた相続人が、それぞれに決められた割合に従って、遺産を引き継ぎます(法定相続)。
遺言書を残す意義は、この法定相続によらず、遺言者自身の自由意思によって、誰にどれだけの財産を与えるのかを決めることができ、死後、その意思を実現することにあります。
この意思が実現されるためには、法律のルールに則した書式で作成された遺言書である必要があります。
ルールに反した遺言書は無効、あるいは、無効を主張する相続人間で争いになり、せっかくの意思が実現しないことになってしまいます。
自筆証書遺言書の書き方や書式のルール
書き方や書式のルールと言っても、それほど難しいわけではなく、以下の要件を厳格に守れば、遺言書の内容はともかく、書式的な要件は満たすことができ、最低限、書式の不備によって無効になるといった事態は避けることができます。
書式のルール
自筆証書遺言書の書き方で、民法968条①に定められているルールは下記5点です。
- 全文(遺言書の本文)
- 日付を記載
- 氏名を記載
- ❶❷❸を自筆する(本人の手書き)
- 印を押す
自筆証書遺言書は、基本的に全文、遺言者本人の手で書く必要があります。
誰かに代わりに書いてもらう代筆なども認められません。
日付に関しては、西暦和暦のどちらでも構いませんが、後々問題にならないように、年月日までを正確に書きましょう。
また、印は認印でも実印でもいいですが、シャチハタは不可です。
財産目録について
遺言の対象となる自分の財産の目録を記載する場合にもルールがあります。
遺言書本文に財産名を記載する場合

自筆の遺言書本文中に財産名を記載する場合には、本文と同様に自筆でなければなりません。
遺言書本文とは別に財産目録を添付する場合

財産目録を遺言書本文とは別の用紙に作成し添付する場合のルールです。(民968条②)
- 自筆(手書き)でなくてもよい
- 目録の各ページごとに自筆で署名・捺印をする
- 1枚の用紙の両面にわたる場合にはその両面に署名・捺印をする
財産目録については、要件が緩和され、別の用紙で作成し添付する場合には、自筆でなくてもよく、パソコンのWord等で作成したり、財産資料をそのままコピーした用紙を添付しても構いません。
ただし、添付する財産目録の各ページごとに、必ず自筆で署名し、遺言書本文と同じ印鑑で押印します。
遺言書本文中の文字の加除および訂正の仕方
手書きで書いた遺言書および自筆ではない添付財産目録の本文中の文字を削除したり加筆したり、または訂正する仕方も法律で定められています。(民968条③)
- 変更箇所を指示
- 変更した旨を付記
- 付記した文章に続けて署名
- 実際に変更した箇所に捺印
この変更の仕方を間違えると、変更後の内容は無効となり、変更前の内容が有効とされる場合もありますので、文字を変更する場合は、手間ですが、もう一度新たに書き直した方が無難です。
遺言書を封筒に入れる場合の留意点
完成した自筆証書遺言書と財産目録を封筒に入れなければならないといった法的な決まりはなく、封筒に入れても入れなくてもどちらでも構いません。
ただ、遺言者以外による改ざん防止という観点から、封筒に入れ封をしておきたいというケースもあると思います。
その際、以下の点に留意しましょう。

封筒に記載する事項も本人の自筆で
封筒には、発見しやすくするために、表面に「遺言書」、裏面に検認が必要な旨、それと遺言者の氏名と日付を記載しますが、それらはすべて遺言者本人の自筆で書きます。
また、封印をする際の印は、遺言書本文で使用したものと同じ印を使用します。
開封は家庭裁判所で行う
遺言者が亡くなった後の事になりますが、封印した遺言書は、家庭裁判所にて相続人またはその代理人の立ち合いがなければ、開封することができません。(民1004条③)
家庭裁判所外で開封した者は、5万円以上の過料に処せられます。(民1005条)
自筆証書遺言書は、法務局の遺言書保管制度を利用せず、自身で保管する場合には、同じく家庭裁判所で検認を受けなければなりませんので、その時に併せて開封を行うことになるかと思いますが、その旨封筒に記載しておく等、残された相続人に対する配慮も必要かと思います。
一度書いた遺言書を撤回する際のルール
遺言書を作っても、その後、気が変わったり、相続人や財産内容に変動が生じ、前の遺言書の内容を変更したいという場合も出てきます。
そうした撤回について法律は、遺言者はいつでも(何度でも)、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回できるとしています。(民1022条)
遺言の方式に従って撤回する
「遺言の方式」とは、自筆証書遺言書であれば、上述してきたような遺言書の書式のことで、それによって作成された新たな遺言書の中に、前の遺言書を撤回する旨の一文を記載し、撤回する方法が基本です。
また、仮に前の遺言書を公正証書遺言の方式で作成していても、自筆証書遺言の方式で新たに作成した遺言書で撤回することも可能ですし、その逆も同様です。
前の遺言と後の遺言が抵触する場合
前の遺言書が残っていて、かつ、後の遺言書に撤回する旨の記載が無く、2枚以上の遺言書が見つかったというような場合、双方の遺言書の内容が抵触する部分に関しては、日付が後の遺言書で前の遺言書を撤回したものとみなされます。(民1023条①)
【例】前:「Aに甲土地を相続させる」 後:「Bに甲土地を相続させる」
また、遺言書による抵触でなくても、前の遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合も後の法律行為によって、前の遺言を撤回したものとみなされます。
【例】遺言書:「Aに甲土地を相続させる」 後の法律行為:甲土地を生前に売却
遺言書または目的財産を破棄した場合
遺言者本人の意思で、遺言書を破棄した場合、その破棄した部分(全部破棄した場合は全部)については撤回したものとみなされます。(民1024条)
また、遺言者の意思で、記載した目的財産を破棄したときも同様に撤回したものとみなされます。
撤回された遺言書の効力
上述の3つの行為によって撤回された遺言書は、その撤回の行為が撤回、取り消され、または効力を生じなくなっても、その撤回された前の遺言書の効力は回復しません。(民1025条)
ただし、その撤回の行為が錯誤、詐欺または強迫による場合は、この限りではなく回復できる可能性があります。
つまり、一度、遺言書を撤回し、その後、その撤回自体を撤回しても、基本的に元の遺言書の効力は戻らないということです。
共同遺言の禁止

共同遺言とは、例えば、ご夫婦で一緒に遺言書を作成したいといった場合です。
民法では、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」(民975条)としています。
つまり、一つの遺言書にご夫婦の遺言を記載し連署するといったことはできず、必ず、ご夫婦それぞれが一つづつの遺言書を作成しなければならないということです。
遺言後、夫婦関係に変化が生じることもありますし、共同遺言をしてしまうと、どちらか一方が撤回したいのにできないといった事態になる可能性もあり、遺言の自由を妨げてしまうからです。
共同遺言をしてしまうと無効となりますので、注意が必要です。
まとめ
以上、自分で自筆証書遺言書を作成する際の書き方や書式のルール等の解説をしてまいりました。
せっかく作る遺言書ですので、その内容を確実に実現するためにも、上述の最低限の書き方や書式のルールは厳守しましょう。
なお、作成した自筆証書遺言書を遺言書保管制度を利用し、法務局で保管してもらう場合には、上述した書式のルールが若干異なりますし、要件も異なりますのでご注意ください。
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