遺言書の書き方に関する文例集などを見ていると、「~に相続させる」と「~に遺贈する(与える、あげる等)」という2つの文言があることに気付かれると思います。

「遺贈する」と「相続させる」、どちらも自分の死後に財産を承継するという意味では同じですが、どちらを使うかで、後々の効果が異なりますので、自分で遺言書を書く際には、明確に使い分けることをお勧めいたします。

このページでは、「遺贈する」と「相続させる」の違いについて、お伝えしていきます。

相続とは?

相続とは、被相続人(亡くなった方)の死亡によって開始し、死亡届の有無にかかわらず、また、相続人が被相続人の死亡を知っているかどうかにかかわらず、開始と同時に当然に(自動的に)被相続人の財産が相続人に承継されることを言います。

相続人が複数いる場合には、相続人全員の共有財産となり、法律で定められた相続人が、法律で定められた割合をもとに遺産を分割します。

遺贈とは?

遺贈(いぞう)とは、遺言によって無償で財産を与える行為です。

遺贈する人を遺贈者、受け取る人を受遺者と呼びます。

遺言は遺言者の死亡によって効力が生じ、遺贈目的物を当然に受遺者が承継します。

この点は相続と同様です。

遺贈は、法定相続人に対しても行えますが、相続人以外の人物や法人等に対しても行えます。

例えば、存命の子の子(遺言者から見て孫)、子の配偶者、内縁のパートナー、あるいはお世話になった恩人や介護施設等の法定相続人以外でも遺贈可能です。

遺贈は、包括遺贈特定遺贈に分かれます。

包括遺贈とは?

包括遺贈とは、遺言によって、財産の全部または財産の一定割合(1/2、1/3・・)を指定して与えるものです。

相続人と同一の権利義務を有しますので(民990条)、被相続人の負債も負うことになります。

その代わり、相続放棄、承認等を選択でき、その期間は相続人と同様に3ヶ月間が適用されます。

また、他の相続人と指定相続分に応じて共有関係となり、受遺者が法定相続人以外であっても遺産分割協議に参加することができます。

特定遺贈とは?

遺産のうち、遺言により特定の財産を指定して与えるものです。

例えば、長男に土地建物を与えるといったものや、長女に○〇銀行の○〇支店の口座預金を与えるといったものです。

特定遺贈の場合は、包括遺贈と異なり、負債は負いません

また、遺贈の放棄も遺言者の死亡後であれば、いつでもすることができます。(民986条

ただし、遺贈義務者、利害関係人等から承認か放棄かの催告があった場合には、相当期間内に受遺者が意思表示しない場合には、承認したものとみなされます。(民987条

(参考)死因贈与とは?

本題から少し逸れますが、遺贈に似たものとして死因贈与というものがあります。

どちらも自分の死後、財産を与えるという点では共通ですが、遺贈が遺言という一方的な単独行為なのに対し、死因贈与は、生前に贈与者が受贈者(財産を受け取る人)に対し、財産を与える旨の意思表示をし、受贈者の承諾を得ておくという点で大きく異なります。

つまり、贈与契約によるもので、契約書という形でも構いませんし、立証は困難ですが、口頭でも構いません。

ちなみに、贈る人を贈与者、受け取る人を受贈者と呼びます。

また、死因贈与の受贈者は、相続税の対象となります。

「遺贈する」と「相続させる」の文言の使い分け

上述しましたように、遺贈と相続ではその法的意味合いが異なります。

しかし、法定相続人においては、「遺贈する」と「相続させる」と両方の文言を使えることから、どちらで書けばよいのか、迷われる方もいらっしゃるかもしれません。

財産を分与する対象遺言書の文言
法定相続人以外「遺贈する」
法定相続人「相続させる」or「遺贈する」

法定相続人に対しては、「相続させる」とした方がメリットが多いため、法定相続人に対して遺言で財産を承継する場合には「相続させる」という文言を使用し、法定相続人以外に遺言で財産を承継する場合には「遺贈する」という文言を使用するのが一般的です。

「遺贈する」と「相続させる」の使い分けによる効果の違い

では以下に、「遺贈する」と「相続させる」の文言の使い分けによる効果の違いには、どのようなものがあるのかを見ていきましょう。

登記手続きの違い

例えば、遺産のうち、不動産を与える場合、遺言者名義から受け取った相続人に名義変更(所有権移転登記)をしなければなりませんが、遺贈とするのか、または相続とするのかでは、その登記手続きに違いが生じます。

「遺贈する」とした場合

その不動産を遺贈とした場合、その不動産を承継した相続人(受益相続人)と遺贈義務者である他の共同相続人全員との共同申請となります。

つまり、手続きには、受益相続人と他の相続人全員の署名、押印が必要となります。

共同相続人のうち、1人でも同意しなければ、登記手続き自体が滞りますし、場合によっては紛争に発展する可能性もあります。

しかし、遺言執行者を指定している場合には、受遺者と遺言執行者で手続きを進めることができますので、遺贈とする場合には、遺言執行者を指定しておくべきでしょう。

「相続させる」とした場合

相続とする場合には、相続登記となり、不動産を取得する相続人は、遺言書とともに申請すれば、他の共同相続人の承諾を得ることなく、単独で相続登記をすることができます。

借地権及び借家権における賃貸人に対する承諾の要否

例えば、借地上に建物を建て居住している場合、この建物と借地権を他人に譲渡する場合、借地権者が変更になりますので、地主等の賃貸人の承諾を得なければなりません。(民612条①

相続の場合には、賃借人の死亡と同時に権利が移転しますので、この承諾は必要ありません。

ただし、遺言によって借地権を遺贈する場合は、注意が必要です。

法定相続人に対する「相続させる」旨の遺言の場合は、相続と同様に承諾の必要はありませんが、「遺贈する」の場合には、承諾が必要です。

もちろん、法定相続人以外に遺贈する場合にも承諾が必要です。

よって、借地権を「遺贈する」場合には、生前に地主に承諾をもらっておくなど対策が必要です。

なお、前述しました死因贈与は、贈与にあたりますので、受贈者が相続人であっても承諾が必要です。

遺贈を放棄した場合の違い

遺贈を放棄することも可能ですが、その際、「遺贈する」と「相続させる」では、放棄の効果にも違いが生じます。

特定の法定相続人が遺言によって財産を承継する場合、その遺贈目的財産以外にも財産がある場合には、以下のような違いがあります。

「遺贈する」とした場合

遺贈するとした場合、その遺贈を放棄しても、それ以外に遺産分割の対象となる財産があれば、それらの財産については相続を承認するということが可能です。

反対に、遺贈については承認し、相続を放棄するということもできます。

「相続させる」とした場合

特定の相続人に相続させるとした場合、その遺贈は遺産分割の方法または相続分の指定をした相続となり、遺贈もしくは相続のどちらを放棄しても、いずれの相続財産も取得できません。

まとめ

以上、自分で遺言書を書く際に、注意すべき「遺贈する」と「相続させる」の違いについて、おもな違いについてお伝えしてきました。

登記の際にかかる登録免許税率が、相続人については遺贈も相続も差が無くなるなど、以前よりも「相続させる」旨の遺言のメリットは少なくなったように感じます。

それでも、遺贈目的財産が不動産の場合、「相続させる」とした方が、単独で登記申請を行えるなど、まだメリットが大きく、遺言を書く際には、こうした違いについて留意しながら、書くようにしましょう。

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